湿度王への道:新たなる旅立ち

ウォークイン・ヒュミドールの造り方

 

プロローグ

ウォークイン・ヒュミドールの造り方について、時々ご相談のメールを頂くことがあります。大井町の自宅に造ったウォークイン・ヒュミドール、うちではもっぱら「シガー・セラー」と呼んでいました。これもいろいろドタバタありましたが、今となっては非常に楽しく有意義な経験でした。 その断片は湿度王への道:新たなる旅立ちとして記録を残しています。しかし、以前の記事では分かり難いので詳細を追加して更新しました。何かのご参考になればと思います。
 

地下室は断念
「さてさて、湿度王としてはやはり「地下室」が欲しかった......地下室、嗚呼、何と浪漫的な響きでありましょうか......地下室、それは子供の頃に夢見た秘密基地であり、誰もが足を踏み入れることのできない約束の聖地なのであります......ところが、見積もりを聞いてビックリ!何と高価なのでありましょう。地上2階地下1階を夢見ていたのですが、現実には我々の予算では地下室を作ると地上を造れないではありませんか?! 打合せ数時間にして、早くも地下室は断念せざるを得ませんでした......」 などと書いておりましたが、実は隣に新築の物件があったことに加えて建築予定地の道路幅が狭く重機類の持込が難しく工期が大幅に延長されることになるということで断念したというのが直接の理由です。ウォークイン・ヒュミドールにするかどうかは別として、地下室の建設については税法上の優遇措置(ガレージなどと同じ扱い)がありますので、新築や思い切ったリフォームの際に検討する余地を残すことをお勧めします。
 
納戸ですか?
さて、紆余曲折を経て、ウォークイン・ヒュミドールのスペースとして幅1300×奥行2700×高さ2400のスペースを確保しました。家の間取りは妻の考えに任せていました。そして、妻の図面では間口の狭い方の中央部に70センチ程度のドアを取り付け、両脇を30センチずつ空ける、という仕様になっており、リビング・ルームから出入りするようになっていました。 妻は「思ったより広くできなくてごめんね」と申しておりましたが、そんなことはありません......えっ?何ですと?それじゃ納戸と同じじゃないか、ですと?!......まぁ、そういう言い方もできますが......なんのなんの、この空間は茶道を嗜む人にとっての茶室同様、葉巻道を踏み出した者にとっては宇宙よりも広大にイメージが膨らむ空間であるのです。これれだけの広さがあれば、一体どれだけの葉巻を置くことができるのでありましょうか。想像するだけで眩暈を起こしそうであります。 とは言うものの、冷静になって考えて見れば、私にとって家を建てることも初めてならば、ウォークイン・ヒュミドールを造ることも初体験であり、何から手を付けて良いのやらと、最初の喜びは徐々に困惑に変わって行くのでありました......

造作の悩み

さて、スペースは確保したものの、造作をどうするかということについては随分と悩みました。もちろん、いろんなシガー・バーやショップを訪ね、セラーを見たり、あるいは友人・知人の意見を聞いたり......工務店との度重なる打ち合わせの結果、造作については次のように決めました。
 
天井/壁/床の構造

最初に悩んだのが天井・壁・床でした。部屋の中は高湿度となるため、壁の内側で結露する可能性が高くなります。すると、壁の内側の経年劣化が早まるのではないかと。そこで、防水加工し、その上に壁材を張ることにしました。
 
天井/壁/床の材質と仕上げ
次の悩みは壁材でした。談話室でも話題に上がりましたが「スペイン杉」が見つからないのです!  最終的には見つからないというよりも「日本には入っていない」ということでした。そのために最終的にマホガニーに決めました。
また、「防黴のために薄くニスを塗るかどうか」ということも検討しましたが、まずは葉巻保管の基本から、ということで「仕上げ鉋をかける前段階の状態のもの 」を張ることにしました。
 
wall
概要
他にもいろいろ検討した結果、概ね次のようにまとまりました。
- 温度変化をゆるやかにするために、壁・天井・床に通常より厚めに断熱材を入れる。
- 壁の内側の結露防止のために、壁・天井・床全体に防水加工を行う。
- 保湿性を高めるために、防水加工した壁・天井を無垢のマホガニー(厚さ15mm)張りにする。
- 掃除や排水を良くするために、防水加工した床はそのままとする。
- 空気の入れ替えを容易にするために、吸気口と換気扇を取り付ける。
- 温度調整と夏場の除湿のために、エアコンを取り付ける。
- 加湿のために、湿度計連動式の加湿器を取り付ける。
- 空気を攪拌するために、電動ファンを取り付ける。
- 精製水を自動給水するために、浄水器を取り付ける。
- 葉巻を並べるために、ステンレス製のラックを並べる。

基本的な方向が決まったところで加湿器などの機種の選定に入りました。取り付け位置と効率を考慮する必要もあるため図面を引くことにしました。
 温度調整も頭を痛めました。業務用冷蔵庫を造っているところにも問い合わせてみましたが......結局、エアコンを取り付けることにしました。
 

cigar celler draft

機器の選定

湿度計と加湿器
当時、日本国内の大型の加湿器は加熱式が主流でした。そこで、Habitat Monitorの製造元、米国CMT社に連絡を入れたところ「機種を決めるには図面がないと何とも言えない」という返事が届きました。 そして、図面は三面図ではなく展開図にして送りました。
数日を経て、
1. 入り口付近と奥の二箇所に湿度計と中型の加湿器を設置する。
2. 奥の一箇所に湿度計と大型の加湿器を設置し、定期的にファンを回す。
の二案が届きました。二箇所に独立した加湿器を置くのが理想でしたが、スペースの問題をクリアするのが難しかったために、2の案で行くことにしました。
別のところでも書いていますが、本来Habitat Monitorは湿度と温度の両方をコントロールすることができるように作られています。しかし、温度管理機器を輸入する気にはならず、加湿器のみ取り寄せることにしました。
 

Habitat MonitorHumidifier

逆浸透膜浄水器か?精製水か?
ウォークイン・ヒュミドールの加湿には「蒸留水」を使う必要があります。そのために大量の蒸留水を確保しなければなりません。そこで、いちいちタンクに蒸留水を補給するのではなく水道水を浄化して使うことを考えました。そして候補に挙がったのがこの浄水器です。
取り扱っている代理店によれば逆浸透膜とは「動植物の細胞膜(水の分子のみ透過させる)に近い人工の半透膜に圧力をかけ、その逆浸透作用によって真水を作ります。逆浸透膜には水分子の大きさ(約0.0003ミクロン)にほぼ等しい(僅かに大きい)孔が空いていて水は通しますが、水中の水分子より大きい大部分の不純物は通しません。塩素はもとより、トリハロメタン、細菌、重金属、TOX(有機塩素化合物)など、不純物のほとんどを除去します。浄水能力は非常に高く、尿でも飲用可能な真水に変えます。アメリカでは主流だが、日本では、あまり普及しておらず、手に入れにくい。」のだそうです。
ところが、赤帽倶楽部メンバーに医療機器に詳しい方がいて、その方によれば「市販されている逆浸透膜浄水器は必ずしも浄化が十分ではない。精製水をリットル単位で補給した方が良いと思う。」ということでした。そこで、この浄水器の採用は見送ることにしました。 そして、その代わりに都度20リットル入りの精製水を購入して補給することにしました。
 

Water Purification System Purified Water Box

自記式温湿度計
これも何処かに書いたことですが、ある時、赤帽倶楽部メンバーである「青山の兄さん」から言われた「(温度と湿度が)一定かどうか気になるんだよね」の一言で導入することにしました。お陰さまで許容範囲内で一定であることが分かりました。
 

シグマミニスター
測定範囲 温度 -6〜40℃
湿度 5〜100% rh 
測定精度 温度 ±2℃(10〜30℃、その他は±3℃)
湿度 ±5% rh (30〜90% rh at 15〜25℃、その他は±7% rh)
時計 クォーツ式・7日
単3マンガン乾電池(R6P)1本
カバー 強化ガラス
記録紙 7日用 55枚付
記録紙最小目盛 温度 2℃ 湿度 5% rh 
記録ペン カートリッジペン紫
(約6ヶ月使用可能)
寸法・質量 φ125×(H)192mm
約1.5kg
 
エアコンと除湿機
夏場の課題はズバリ「除湿」です。5月下旬頃からエアコンは付けっ放しで気温を調整していましたが、梅雨に入った途端にエアコンだけでは湿度を抑えることができなくなりました。ウォークイン・ヒュミドールが完成して最初の夏を迎える前、5月の日記によれば「気温の上昇に加えて雨による湿度の上昇が頻発してきたため、シガー・セラーの中のエアコンは付けっ放し、ついでに除湿機も自動運転モードとなりました......湿度が65%以下になると加湿器が働き、湿度が70%をこえると除湿機が、そして、気温20度でエアコンが......もう大変(笑) そして、2日もほったらかしておくと除湿機のタンクが水で一杯です。そこで、タンクに溜めず直接ホースで排水することにしました。記録式温湿度計を置いているので履歴は全て残っています。しかし、エアコンや加湿機、除湿機の動きが分かりすぎて精神衛生上良くないかも知れません(笑)(05/24/01)」ということです。
改めて言うまでもありませんが、日本の夏は気温上昇による虫と過加湿に要注意です。
 
(12/09/03)

Dehumidifier

運用開始

シェルフの組み立て
最初は作りつけを考えていたのですが、妻より既成の組み立て式の棚板の増減など融通の利くのではというアドバイスがあり、東急ハンズで見つけたスチール 製のものにしました。
 
加湿器の位置

最初は加湿器を床置きしていましたが、葉巻の箱のスペースを確保することと湿気は床に溜まりやすいということがハッキリしました。そこで、天井付近から加湿できるということとエアコンの風に乗って隅々まで届くということを狙いエアコンの噴出し口の脇に置きました。これは結果的に正解だったようです。

換気扇は不要
換気扇は地下室にウォークイン・ヒュミドールを造る前提で取り付けを検討したものでした。地下室を諦めたものの図面にはそのまま残っていました。まぁ、たまには換気をするのも悪くはないだろうと思っていたのですが、換気扇を回し始めた途端に温湿度の維持のためにエアコンや加湿器がフル稼働することとになりました。また、雨の日には換気口から湿った空気が流れ込むなど、余り良いことがなく 後日換気口をふさぐ事にしました。
 
試運転とシーズニング
ひとまず機器の設定終わったところで加湿器の試運転を兼ねてHabitat Monitorを温度20度、湿度70%に設定しウォークイン・ヒュミドール全体をシーズニングすることにしました。通常100本程度を収納するヒュミドールで2−3日かけますが、単純に容積比で期間を決めるととんでもないことになるので、まずは一週間放置することにしました。一日目は20-30分おきに加湿器が動いていましたが、徐々にその間隔が広がって行きました。そして、このシーズニングための一週間で約30リットルの精製水を消費したように記憶しています。 これは全くの余談ですが、卓上型ヒュミドールの取扱説明書には使い始めの準備のことをSeasoning Humidorなどと書かれています。これを最初に見た時にはオヤッ?と思うことがありましたが、「全体を馴染ませる」というニュアンスとしてはseasoning以外に適当な言葉がないのかも知れません。
 
温湿度計を追加
果たして自分の設計で上手く管理できるかどうか半信半疑であったために運用開始直後は加湿器をコントロールする湿度計、HabitatMonitorの隣にドアの窓から見える大型のもの1個、奥の壁とドアの中間付近の天井近くと床の左右の壁に小型のものを1個ずつ、ドア付近の天井近くと床の左右の壁に小型のものを1個ずつ、そして、ドアの窓に1個、合計10個の温湿度計を配置し、温度と湿度の分布状況を調べました。そして、自記式のものを中間地点に設置し、11個で様子を見ることになりました。今にしてみれば、そこまで神経質になる必要はありませんでした(笑)
 
葉巻の箱が増えると湿度が安定する
シーズニングを終えたところで葉巻の箱を収納しました。すると格段に湿度が安定したように思います。というのも葉巻の箱が積み上げられた分だけ空間が狭くなり、そして、葉巻の箱そのものがすでに湿気を帯びている訳です。つまり、葉巻の箱そのものが一種の保湿器の役割を果たしていることになります。とは言うものの、全体に落ち着いたかなと思えるようになるまでは3ヶ月を要したように思います。
 

所感

自記式温湿度計の記録を見るとウォークイン・ヒュミドールの中で何が起きていたかということが大体分かります。主なものを例示しながら所感を述べます。
 

温度を制するものが湿度を制する
ウォークイン・ヒュミドールを造ってつくづく痛感したことは何より「温度管理」の重要性ということです。温度を安定させることで湿度計の表示に一喜一憂するということがグッと減りました。
温度は10度と19度の間、湿度は65%から80%の間を行き来していました。これらの数値だけ見ると大きな幅があるように見えますが、温度については冬から春を経て夏に向って徐々に上がり、秋口から冬に向って徐々に下がるという具合に徐々に変化しています。そして、湿度の方は冬場に冷え込みが厳しくなった日や雨が降った日に一時的に上昇 することもありましたが、夏場を除くと大体緩やかに変化しました。
 

静かな4月
文字通りです。この時期はエアコンも加湿器も除湿器も何も動作していません。
 
 
 
 
 
 
 
5月から9月までは除湿
エアコンだけでは湿度が下がりませんでした。エアコンのフル稼動で温度19度以下を保持できましたが、湿度を70%以下に抑えることはできませんでした。
そこで除湿器の出番ということになります。ところが、除湿器の湿度設定は大まかのために70%と設定しても60%以下まで下がったところでやっと止まるような状況です。そのために不足分を補うために加湿器が稼動するという非常に効率の悪い現象に直面することになりましたが、どうしても解決できませんでした。これはもう割り切る意外にないと思います。
 
10月から3月までは加湿
大気中の湿度がどんどん低下し、30%以下になることもあります。そのために加湿器はせっせと精製水を消費することになります。精製水のストックを切らさないように注意する必要があります。
また、ウォークイン・ヒュミドール内の温度が15度以下になる場合に備えて赤外線ヒーターを設置しました。これはウォークイン・ヒュミドールとリビング・ルームの温度差でドアや窓に結露させないということを考えての処置でした。しかしヒーターを使うことはありませんでした。
 
(12/12/03)

葉巻保管番外編:湿度王への道