葉巻保管番外編

<湿度王への道>

米国での数年来の流行のせいか、葉巻の選び方や楽しみ方については多くの解説を見ることができるようになりました。やれキューバ産がどうしたこうした、ドミニカ産はああでもないこうでもない、葉巻に相性の良い飲み物はすべったころんだ、葉巻は究極の贅沢……などなど見かけるようになりました。
ところが、「究極の贅沢」であるにもかかわらず、その高価な葉巻の保存方法について説明されているものは非常に少なく……保存方法は各人各様?……あるいは一子相伝門外不出免許皆伝企業秘密?……それにしても余りにも参考となるものが少なく、そこで少なからず授業料を払い、ようやく自分の考える良い状態に収束しつつあるかと思うと落とし穴に陥り、という試行錯誤を繰り返しながら現在に至っております。
そこで、私自身の経験を語ることで、いかに葉巻というものが業深いものであるのか、ということを明らかにし、この地獄がどんなに危険なものかということを一人でも多くの方に知らしめることで、自分自身の贖罪になればと思う次第でございます。
        

◇湿度漂流記 1 <湿度オタクへの序章>

私の最初の葉巻保管箱はタッパウェアに湿度計と加湿器を入れた自家製でした。某所の方とお会いするたびに某葉巻保管箱を熱心に勧めて頂いておりました。しかし、
DAVIDOFFの葉巻は別として、値段に見合うだけ状態の良い葉巻に出会う機会が減っているような印象が強くなっていることや、産地や銘柄にこだわらずSTOGYと呼ばれるようなものも含めて少しずつ試したり、チューブ入りのものに目が行っていたために「わざわざ専用の保管箱に保存するまでもないでしょう」と購入意欲をそそられる以前に気恥ずかしさが先に立っておりました。
ところが、ある時に非常に素晴らしい、これまでのキューバ産の葉巻のイメージを覆すCOHIBA ESPLENDIDOSを一箱入手する機会を得たのです。それまでに試したキューバ産と言えば、表面が波を売っていたり、リングが回るほどに縮んでいたり……本当にこんな不味いモノに高い金だすよなぁ…ということを毎回確認していたようなものだったのですが、そのCOHIBAは全く違っていました。

cohiba esplendidos

そして、他に道楽らしい道楽がないせいか、美人と評判の妻は私の葉巻好きに理解があり、「そんなに良いシガーを手に入れたのなら、それにふさわしいケースに入れた方が良いんじゃないの?」ということになりました。そして、その直後の旅行先で偶然LOUIS VUITTONの葉巻保管箱を見つけるに至り、熱心に購入を勧めてくれました。
やはり、美人の妻の勧めには、さすがの私も弱気になり、大枚叩いて購入することになりました。もちろん、美人の妻には保管箱の値段以上のヒカリモノを強請られることになったのは改めて申し上げるまでもありません。(上の画像クリックで大きな写真になります)

はやる気持ちで日本に帰り、玄関を開けるのももどかしくLOUIS VUITTONの葉巻保管箱を取り出しました……え、えぇっとぅ説明書、説明書……??!!……ゲゲノゲッ!フランス語で書いてあるぅ……
フランス語の説明書という鬼も涙するような相手との戦いの後、晴れてこれでタッパウェアともお別れかと思っておりましたが、「器が増えれば中身も増える」ようで、タッパウェアと併用することになりました。そして、タッパウェアが2個になり、3個になり......美人の妻が普段使わないLOUIS VUITTONのトランクにも保湿器を入れ、そして、上面がガラス貼りの小型のコレクションケースまで動員することになりました。

タッパウェアは完全に密閉されるために長期保存には向いていないようでした。しかし、何と言っても安上がりでお手軽でした。タッパウェアにはCREDO社製の保湿器を入れて使用しておりました。CREDO社製の保湿器は常に湿度70%を保つと言われておりますが、多少バラツキはあるようで、かつまた、アナログ式湿度計の精度にもバラツキがあることを知り、「湿度」に神経質な一時期を迎えました。旅先で購入したLOUIS VUITTONの湿度計にも誤差がありますが、がっちりと固定してあるために調整可能かどうかも見当がつかず、別にもう一個湿度計を入れることとなりました。

実は塩と水の儀式というのをやると湿度計が正しく表示しているかどうかが分かります。しかし、この儀式は当事者にしか分からない手順があり、また開始から終了までに時間がかかるため、やたらめったら執り行うことはできません。ところがある日、美人の妻が外出した隙にこっそりこの儀式を試しました……そして、その儀式が終わる前に美人の妻が帰宅し、儀式を見られてしまったのです……その結果、美人の妻から「湿度(計)ヲタク」という有難くない渾名を頂戴することになったのです。(塩と水の儀式について:湿度計の測定) 
「湿度(計)ヲタク」いくら美人の妻とは言え、愛する夫に向かって言う言葉でしょうか!?しかし、悲しいことにその通りなのです。その儀式を見られた私の人生はその瞬間に終わってしまったと言っても過言ではないのかも知れません……

(備考:下線のモノ・道具の写真は全て同じページに掲載しています)
     

◇湿度漂流記 2 <湿度オタクの頂点へ>

ある日、LOUIS VUITTONのトランクの中に置いた湿度計を見ると、恐るべきことに湿度が下がっているではありませんか?! もしやと思いコレクション・ケースの方を見ると、やはり、悪い予感は的中するもので、湿度計の針があるべき数値を指しておりません。
いろいろと原因を考えた末にトランクやコレクション・ケースの容量が大きいためにCREDO社製のものでは保湿能力が追いつかないということに思い当たりました。そして、そこから新たな地獄の日々が始まったのです。


雑誌めくりまくり、インターネットで検索しまくり、問合せ出しまくった結果、漸くCigar Oasisという銘柄の電動式加湿器を発見しました。この米国製Cigar Oasisは日本国内でも取り扱っているところがあるのですが、値段を見て吃驚!キューバ産の上物葉巻一箱、専用保管箱一個に相当する価格なのです。そ、そんなバカな?!
ところが、捨てる神あれば疲労髪……元い、拾う神ありということで、思い切って米国の製造会社に手紙を出したところ「日本?直販OKだぁよぉーん!」との返事。価格も直販割引価格(?)という不思議な、しかし、国内で調達するよりも半分以下の価格で商談成立。早速試しに一個注文したのは改めて申し上げるまでもないことでございます。

さて、Cigar Oasisを注文した直後、偶然にもHabitat Monitorという製品を発見してしまいました。Cigar Oasisは湿度センサー一体型で専用保湿液ユニットを定期的に交換する必要があるのですが、Habitat Monitorは市販の蒸留水の補給でOK、なおかつ、温度湿度計付きコントローラと電動保湿器が電線で繋げられるので設置の自由度が高いというではありませんか。それに加えてタッパウェア程度の大きさからワンルームマンション規模の空間まで対応できるように電動保湿器の大きさの種類が豊富と聞いては、とるものもとりあえず問合せの手紙……日本?OK!インターネット特別セット価格……という訳で何の疑問も持たないままに、こちらも発注……

Cigar OasisとHabitat Monitorの到着を待つ間、何もしなかった訳ではありません。
インターネット上で葉巻の保管方法に関する情報を集めたり、その情報に基づいて美人の妻のLOUIS VUITTONのトランクとコレクション・ケースの内径を計り底に敷くための杉板を切って貰うために東急ハンズへ行ったり、その合間に仕事したりと何かと動き回っておりました。

漸くCigar Oasisが到着しました。繰り返しになりますが、Cigar Oasisはセンサーと加湿器が一体ですが湿度計はついておりません。しかし、湿度が気になって気になってしょうがないので「塩と水の儀式」を経て禊の済んだ湿度計を準備し、コレクション・ケースに設置しました。Cigar Oasisは非常に小型ですが動作音が少し耳障りです。一晩中動作音に悩まされ寝不足気味で起きてみると、依然としてモーターは動いており、湿度も上がっておりませんでした。コレクション・ケースの方はCigar Oasisを持ってしても湿度攻略できなかったのです。状態にもよりますがCigar Oasisは大よそ年に1−2回程度専用の保湿液の入ったユニットを交換する必要があります。しかし、この分では1ヶ月に1回交換しても全く間に合わないようでした。

そこで、コレクション・ケースの方は断念し、杉板を底に貼った美人の妻のLOUIS
VUITTONのトランクの方に設置しました。祈りが通じたのか設置して1時間程でモーター音が止まり、湿度計を見るとピタリ70%を示していました。長く暗いトンネルの先に針の頭ほどですが、出口を象徴する光が見えたと思えました……
続いてHabitat Monitorも到着しコレクション・ケースの保湿も万全、これでようやく平和と安息の日々が訪れたと思ったのも、それは嵐の前の静けさに他ならなかったのです……
     

◇湿度漂流記 3 <虫の姿を借りた悪魔現る>

「宇宙の悪意は最大値をとろうとする」の教えどおり、突然何の前触れもなく恐怖が訪れました。そうなのです、悪魔が来たりて穴を穿ったのです!

LOUIS VUITTONの専用保管箱に入れておいたCOHIBA ESPLENDIDOSの1本、リングの真下に小さな穴を発見しました。最初は何かで傷でも付けたのかと思いました。しかし、傷つけたのであれば穴の周囲は凹むはずですが、この穴は内側から外に向かって破裂したよう……まるでエイリアンの幼生が飛び出したような不気味な開き方をしておりました。まっ、まさか?!まさかあの悪魔が??!!
一瞬にして目の前が真っ暗になり、気絶しそうになる所を歯を食いしばって耐え、何とか冷静さを取り戻し、他にも穴が開いたものがないかどうかを確認しました。しかし、幸いなことにはその一本以外には見当たりませんでした。

とりあえず購入先の某所へ連絡、アルミチューブに穴の開いたESPLENDIDOSを入れて
某所へ持ち込みました。某氏は穴の個所をじっと観察し、「虫カモ知レナァイデスネェ」と呟きながらライターを取り出し、こともあろうに私の大切な虎の子のESPLENDIDOSに無造作に炎を近づけ、何と容赦なく穴を炙り始めるではありませんか?!すると、熱に耐え切れなくなったのか、断末魔にも似たように何かが飛び出しました。そして、それは、体長2−3ミリ位の灰色かかったモカ色の虫の姿を借りた恐るべき悪魔でした。
某氏によれば、「製造段階デ紛レ込ミ出荷前ノ消毒ヲ経テモ生キ延ビタ悪魔ナノデェス」ということでした。資料によれば48−72時間以上箱ごと冷凍庫に入れると全ての悪魔も悪魔の卵も死滅するらしく、米国の葉巻販社の中には入荷した葉巻は全てその手続きを踏んで市場に出すところもあるようです。しかし、某氏によれば、「メッタニコンナコトハアリマセンデス」、えっ!現にそうじゃないかぁ!「ダケドモ冷凍スルト風味ガ落チマスカラ薦メマセン」だと?何ぃ、「悪魔ハ葉巻ツキモノノりすくデェス」だってぇ??そっ、そんなぁ……「大丈夫デェス、メッタニコンナコトハアリマセンカラ」……
ESPLENDIDOSは1本ダメになりましたが、はるばるキューバから海を越えて日本にやって来たということに、悪魔ながら天晴れと思わなくもありませんでしたが、それも敵の手の内、油断はなりません。悪魔が虫の形をしている間に急いでちり紙で取り押さえ、市中引き回しの上磔獄門の刑に処すことにしました......ということで、ESPLENDIDOSの安全のための超法規的水際防疫作戦は一応成功を収めることができたのです。  (写真右:磔獄門前の記念?写真)

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◇湿度漂流記 4 <湿度王への道・苦闘の日々>

これは!と思う葉巻を目にしたときに躊躇しないようにずっと葉巻預金を積み立てておりました。そして、再び大変に状態の良いCOHIBA ESPLENDIDOSとの邂逅があったのです。しかも、あのMONTECRISTO "A"と一緒にです。ESPLENDIDOSには皺一つなくリングが緩すぎることもなく、また、MONTECRISTO "A"は余りの美しさに声を失ってしまいました。まさにここぞ!!とばかりに葉巻預金を全て吐き出してしまったのです。(大きな写真は画像をクリック)

montecristo a

さて、手に入れたまでは良かったのですが、COHIBA ESPLENDIDOSから悪魔が出現した文字通り悪夢の経験を思い出してしまいました。考えてみれば、それまでは湿度にばかり気を取られ、温度のことを余り気にしていなかったのです。しかし、季節の移り変わりと共に気温は上がり、気温が上がるにつれて、温度上昇=虫の姿を借りた悪魔の出現に怯える日々が待っていたのです。
もちろん、さっさと喫い切ってしまえば良いのですが、普段用とするには高価でありもったいなくもあり……何と言っても葉巻預金を使い果たしてしまいましたので……やはり「特別な日」用にとって置きたいとの気持ちの方が強いからでしょうか、それともただのビンボー症ということでしょうか……私の妻は美人なのに。

そうです、先にご紹介したように私の妻は評判の美人で、私の葉巻好きに理解があり、葉巻のことでクヨクヨ悩んでいるように見えたのか、あるいはそこここに葉巻を入れて置かれたタッパウェアが目障りになったせいか、ある日「ワイン用のセラーがあるように、シガー用のセラーはないの?」と慈悲深い愛情溢れる問いかけ。目から鱗とはこのこと、なぁんだそうか!自家用の温湿度調整可能な保管箱を探せば良いのか!ということで、いよいよ底なしの深みへの序曲を演奏することになったのです……

電動式保湿器を探した時以上に、あるいは故郷に帰るユリシーズの長い航海のように、あらゆる伝を求めての旅が始まりでした……ある時はCigar Oasisを日本国内で販売している有名某社、また、ある時はキューバ産の葉巻を手広く輸入販売している某所にも問い合わせて見ましたが要領を得た回答がなく……日本国内には手がかりがないことが判明し……検索結果から何千というリンクを辿り、寝食を忘れ、美人の妻との語らいも放り投げて……ところが、これがなかなか思うものが発見できませんでした。

そして、膨大なリンクの中から最終的にいくつかの米国の製造会社を発見し、ひとつづつ連絡を入れることになりました。温度湿度管理万全な保管箱ならぬ保管庫を「施工」するところは簡単に見つけることができましたが、「製造」しているところは非常に限られていました。
もし、「施工」を頼むと、壁をスペイン杉貼りにして冷却器を取り付け、保湿器用にポンプや水道管を引いて部屋ごとそっくり葉巻保管庫やワインセラーに改造すると言うのですまた、そのための専用冷却器や大型保湿器などを専門に製造している会社もあり、偶然にもHabitat Monitorの製造元もそのひとつでした。そして、まぁ、それはそれで非常に興味深い情報を得ることができたのだと自分を慰める日々が続きました。

     

◇湿度漂流記 5 <地獄の湿度王の誕生>

長い旅路の果てに飾り棚型の温湿度調整可能な保管箱を製造している会社を二つ発見しました!この喜びは新大陸を発見したコロンブスと同じかそれ以上だったかも知れません。とにかくその二箇所にそれぞれ問い合わせを出しました。ところが希望に反し、小型で値段が安く有力候補と思っていた方の会社は全くナシのつぶて、再三連絡を入れても何の回答もありません。果たして大き目の値段の高い方からの連絡が早く、捜索にクタビレ果てていた私はどうなっても良いという半ば諦めの気分でそこと本格的な打ち合わせを始めることにしたのです。

先方は虫の姿を借りた悪魔以上の、アーサー王の物語に登場するマーリンのような魔法使いのような手強い相手でした。極めて迅速でかつ親切丁寧な回答に加えてSIRと呼ばれた瞬間、すっかり舞い上がり、相手の言葉に酔い、まるで自分は王様にでもなったように魔法にかけられてしまったのでした。

保管箱の機能仕様や性能などについて幾度となくやり取りが続きました。中でも面白かったのは電源に関することでした。ある日、帰宅すると製造元からファックスが届いておりました。「貴殿が注文された世界で類を見ない最高技術を持って制作された高品質の保管箱を正しく動作させ、機能を十分に果たさせるために」というような書き出しで始まるファックスは、私の自宅の電圧や周波数、契約アンペア数と電源プラグの形状に関する問い合わせが記述されておりました。

そこで、電圧は交流100Vであり、コンセントにアース線はないこと、50Hzであるが引越しすることを考えて60Hzでも正常に動作する必要があること、50アンペアを契約しているが60アンペアまでなら拡張可能なことに加えてプラグの形状の絵を描き添えて返信しました。
先方から確認書が送られて……上面を硝子貼りにして中が見えるようにし、引出しは1個にして棚を増やし、電源は交流50Hzで100V……温度計は華氏表示のままで……正式発注時に前金として50%、納入時に残金を精算、クレジットカードでの支払可……ところで納期は……

どっひゃぁあ!発注から納入まで12週間……えぇっ?!それぢゃあ、夏が来て、そして、夏が終わってしまうぢゃあないか!夏に間に合わないぢゃあなぁいくぁ?!」ということで一旦発注を見合わせようかと考えました。しかし、製造会社の営業責任者の姿を借りた魔法使いは言葉巧みに「SIR、もちろん、夏には間に合わないかも知れません。しかし、夏が終わり秋を迎えて次に来るのは冬です。冬が訪れるれば当然「冷害」対策を考えなければなりませんよね。そして、宜しいですか、冬が終わり春が来れば、次は再び夏になるのですよ!やはり、一刻も早く打てる手は打っておくに越したことはございません、ぶらぶらぶら……」

魔法使いに魔法を掛けられたこの私に一体どうすればクレジットカード番号を教えずに済ますことができたと言うのでしょうか?!夢遊病者のように書類に署名し、印鑑まで押して返送したのです……もちろん、美人の妻にはそれを遥かに上回る貢物を贈ることになったのは改めて申し上げるまでもないことでございます。

さて、ところで、温度湿度管理機能付きの飾り棚型保管箱が届くそれまでの間、私はどうすれば良いのでしょうか??木箱入りとは言え、長期間タッパウェアでもたせる自信はありません……なぁんだ、もう少し大きめの保管箱を買えば良いんだ!以前に美人の妻に薦められて旅行先で購入したLOUIS VUITTONの保管箱の一番大きなものを追加購入することに、もはや何のためらいもありませんでした……
そして、温度湿度管理機能付きの飾り棚型保管箱が届くそれまでの間、寝る前に必ず明日の最高気温を確認し、仕事に出る前に保管している部屋のエアコンの電源を投入
するという日々をおくることになりました……何の事はない事実上一部屋そっくり葉巻専用保管庫にしてしまったのです……
以来、私は私の美人の妻から「湿度王」と呼ばれることになったのであります。
     

◇湿度漂流記 6 <温度湿度管理機能付きの飾り棚型保管箱が届いた日>

夢とあこがれのシガー・セラー、CLIMATECH 1600を注文して2ヶ月半が経過したある日、VIGILANT社より連絡が入りました......「いよいよ、明日より1週間の試運転を開始します。順調であれば、次の週明けに日本に向けて発送します。」おぉ!神よ、ついに契約が実現され救世主が現れる日が来るのですね!我が葉巻の救世主は間もなく海を越えてやって来るのです!......感動した!?ちょっと違うな、感動というよりも、半分諦めかけていた夢が実現するような非常に不思議な気分でその連絡を受け取りました......そして、運送会社からの連絡により偶然にも正式発注した日付からピッタリ3ヶ月目の週末にCLIMATECH 1600は我が家に到着することが確認されました。

その日は前日から落ち着きませんでした......CLIMATECH 1600を置く場所の確認をしたり、掃除をしたり、中に入れる葉巻の順番を考えたり、なぜか天気予報を確認したり......当日は残暑厳しく曇りのち雨......わくわく、そわそわ......午前中の配達だということでしたから、休みだというのに朝8時には起きて全ての準備を整えて待っているのですが、なかなか到着しません。運送会社に電話を入れ、再度確認をして......運送会社は2度ベルを鳴らし......

「こちらで宜しいでしょうか?」「はい、もちろん!」「あのぅ、かなり大きくて重量があるので持ってくるまで暫くお待ちください」というやりとりの後、ずい分長いこと待たされることになりました......5分経ち、10分経ち......様子がおかしいと思いながら表に出てみると......「お待たせしました!」との声と共に台車に載って現れたのはパレットの上にガッチリ固定されグルグル巻きにされた巨大な貨物でした......

「さて、ここからどうやって運びましょうか?」というのは、表の道路から玄関に至るまでにちょっとした階段があるのですが、それをどうやって降ろすかという問いかけだったのです......困惑とも取れる表情の下から次に出てきたのは「抱えて降りるには重量がありますんで......」その一声で私の胸にドス黒い感情がにわかにものが湧き上がってきたのです......こいつらは運送のプロなのかと。大きさと重量は君らの倉庫に到着した段階で分かっていることではないか。また、届け先に階段があろうがなかろうが、きちんと届ける準備をしておくのがプロの仕事なのではないのかと。

しかし、こみ上げる感情をググッと抑えて「普通の階段より段の幅があるのでそのまま一段ずつ降ろせるでしましょう。私も手伝いますので」ということで、3人がかりで台車ごと1段ずつゆっくりと降ろすことにしました......そして、いよいよ玄関前に到着し、ホッしたのも束の間「玄関から入れられる大きさではないですねぇ」「あ、本当だ。それじゃぁ、ここで開梱して中身だけ入れて頂けますか?」「いぇ、うちは開梱はできません。梱包状態でお届けというお約束です。」「えっ?中に入れていただくという契約のはずですけど?」「いいえ、開梱作業はやらないことになっていますので......家の中に入れられないようですので、ここで良いですか?」「(いいわけねぇだろう、バカ!と言いたいのを堪えて)ちょっと待ってよ、これじゃ、どうしようもないよ。それじゃ、追加料金も払うし、必要な書類にもサインするから開梱して中に入れてよ!」「うちは開梱はしないことになってますんで......」

そいつらは、玄関の前にパレットの上にガッチリ固定されたCLIMATECH 1600とそれを放心状態で眺める私を置き去りにして早々に帰って行ったのです......し・か・も、天気予報通り、その上に小雨がパラつき始めました......

ふと、小雨の冷たさに我に返った私は2階で部屋の片づけをしていた妻を呼びに階段を上がりました......呆れられるに違いないと思いながらも事情を説明したところ、「しょうがないね、二人でなんとか頑張ってみようか」と頼もしい返事でした。

二人で玄関に出て、改めて荷物の状態を確認。とりあえず開梱することにしました。表面のシートを剥がすと発泡スチロールのパネルでがっちり保護された本体が姿を表しました。そこで、荷物の幅と高さ、玄関と設置する部屋のドアの幅など計ったところ、玄関はそのまま通ることが判明しました。

まず、雨に濡れないように、そして、少しでも段差をなくすためにパレット付きのまま玄関の階段前まで地面を引き摺りながらなんとか運びました。その距離1メートル50センチ、所要時間30分。

そして、パレットの固定を外し......試行錯誤を繰り返す想像を絶する作業だったために、これ以降の内容を言葉で説明するのは私の作文能力では困難のため省略......とにかく、ヨガのポーズというか、普通だったら考えられないような姿勢を強いられながら、バラモンの神に祈りながら、なんとか玄関のドアを通り抜け、設置する部屋の前まで運び込みました。その距離3メートル50センチ、所要時間1時間30分。

と、ところが、好事魔多し、部屋の入り口より2センチ程幅が広く入らないことが判明!考えた挙句に部屋のドアを外すことにして、長さ4センチ程のビス合計12本をドライバーで外し、ドアを取り去りました。そして、次の難関はこのドア部分の高さにして2センチ程の出っ張りです。重量はあるにもかかわらず、手をかける場所が制限されているために、この出っ張りがチョモランマよりも高い頂きのようにも思えました。拷問に掛けられる苦行僧のような思いで念仏を唱えながらようやくクリアしました。そして、CLIMATECH1600の4本の足の下にダンボールを敷いて滑りやすくし、予定の位置に運び込みました。その距離4メートル、所要時間1時間30分。

総移動距離9メートル、所要時間3時間30分の作業を終えた段階で、すでに日は暮れ、バラモンの神と釈迦如来のご加護により運び込んだCLIMATECH1600の前で妻も私も汗まみれでクタクタになっておりました。気を取り直し、ドアを元の位置に戻し......12本のビスを取り付け、少し休憩......

はっきり言って、妻の協力なしでは雨に打たれる荷物を呆然と見るだけ、独りでは全くどうにもできなかったと思います。そして、「大型の荷物を運ぶにはFEDEXは全く役に立たない」ということが今回の教訓だとすると余りにも悲しすぎる......そうそう、それともうひとつ、こちらの方が大事「一度外したドアを元通り取り付けるのは簡単ではない」ということも付け加えておきましょう(笑)

     

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