葉巻な場所

Dr.MatchPlayのワールド・シガー・ガイド

心地よい「場所」に、葉巻は欠かせないものです、すくなくともMatchPlayには・・・。

    

MAC'S」 Palo Alto

サンフランシスコ空港から車で101号線を南に約40分、ユニバーシティー通りを西へ出て10分、通りはパロアルトの中心街へ入る。中心街へ入りエマーソン通りを左に入ると右手に看板が見える。エマーソン通りを曲がらずそのままエル・カミノ大通りのガードを潜ると世界の頭脳が集まるスタンフォード大学のキャンパスに入る。
さて、そんなシリコン・バレーの玄関先、ダイエット健康症候群の中心地にMAC'Sは店を開いている。間口の狭い店である。そして、パロアルトを紹介する絵葉書の図柄にもなっているようだから古くからの一種の名所なのかも知れない。
なぜなら、ここはパロアルト中で最も不道徳なものが集められた店であるからである。入り口を入って右手にキャンディー類がわんさと並んでいる。左手の壁には煙草が、レジ前のガラス・ケースの中にはズラリと葉巻が並べられている。そして、店の一番奥にはポルノ雑誌の山また山......
店主はいつもヘア・クリームたっぷりのリージェント姿、とっくに五十は過ぎてそうなしぶとく厳しい顔つきの親父である。そして、支払いの時にこの親父と対決しなければならない。こちらは客であるのだが、毎回生まれてから一度も笑ったことのないような顔のいつもどなり声の親父と口を利かなければならないかと思うと煙草を止めようかと思うくらいに気が滅入る......
つまり、この親父はパロアルトの街中に必要以上の不道徳が蔓延らないように見張っているのである。(06/01/00)

「野田岩」東京

商店街のアーケードから少し脇に外れると、ビルの間に古びた二階建ての一軒家が窮屈そうに立っている。暖簾に麻布と同列であることが記されている。そして、今住んでいる所と番地がピッタリ同じのため、その分勝手な親しみを感じる。
玄関脇の出窓格子の間から鰻を焼く香ばしい煙が流れている。座敷に上がると母の実家、祖母が住んでいた古い家でくつろいでいるような気分になる。
まず、ビールとさざえの雲丹和え、肝焼きを頼む。そして、腹具合と懐具合と相談しながら鰻の大きさを決めることにする。ビールとつまみが出されたところで、鰻重と肝吸い、更に新香の盛り合わせを追加する。
注文した鰻が出てくるまでの間、一杯飲りながら世間話に花が咲く。話題も尽き、ビール瓶が空になった頃、思い出したように鰻重と肝吸いが出てくる。湯気の立つ鰻に山椒の粉を振り掛けて一気にかっこむ。旨い!箸が重箱に当たる音がリズムを刻む。それに合わせて口が動く。しかし、言葉は出ない。ただ、ひたすら黙々と食べるだけである。
頃合を見計らって食卓に急須と湯呑が並べられる。口に残ったタレと鰻の油を洗い流す一杯のお茶......思わず「ごちそうさまでした」と声に出して言っている自分に少し驚く。もちろん、最後の締めはフル・ボディの葉巻を一服。満足満足。(05/25/00)

翁屋」東京

翁屋さんはとても美味しい和菓子屋さんである。今時珍しい合資会社という法人の名称に歴史の重みを感じる。場所はジャーマン通りと山王小学校商店街の交差点、元満鉄映画社総裁だった人と同姓の表札が掛かった家の一軒挟んでを隣にある。ここへは帰り道--勤めや犬の散歩、あるいは山王丸を乗り回した後--に立ち寄ることになっている。
ショー・ケースの中身は季節毎に少しずつ変えられている。例えば今時分は「錦玉」というレモン風味の透明なゼリーが爽やかな冷菓がお勧めである。また、午前11時頃に立ち寄るとこげめの香ばしい焼き立てのみたらし団子が並んでいる。これは本当に旨いと思う。

ご夫婦二人の所謂ファミリー・ビジネスであるが、きっと、葉巻メーカーの中にもここと同様に小規模で良心的な商品を一生懸命に作っている処があるんだろうなとの思いが飛んでゆく。(05/19/00)

「高輪プリンスホテル」 東京

自宅から車で15分、高輪プリンスホテルはご近所と言えなくもない距離にある。決して新しくないし、特別に目新しいサービスがある訳でもない。しかし、これからもずっとそうであって欲しい場所のひとつである。
まず、夏場のクリスタル・プールが素晴らしい。シーズン真っ最中、すぐ隣の新高輪プリンスホテルのプールはゴミゴミ混雑しているのに、ここだけはぽっかり取り残されたように空いている。プールの周りは手入れの行き届いた広大な日本庭園である。
デッキ・チェアに横になると視界に入るのは抜けるように高い青空とそれを丸く取り囲む木々の緑だけである。まるで、森の真中の秘密の草地に寝そべって空を見上げているような、子供の頃に遊びに行った田舎のお祖母さんの家の裏山に居るような、そんな錯覚に陥ってしまう。
冬は冬でイルミネーションの飾り付けが素晴らしい。フロントを通り抜け、一旦外に出て、そのプールを左手に見ながら歩くと直ぐに「桂」がある。
この「桂」というステーキ・ハウスでの食事が絶品である。良い材料を使っているというだけでなく、素材を活かす仕事のできるシェフや多少のわがままなら笑顔で許してくれるスタッフが揃っている。フランス料理の「ル・トリアノン」が控えているせいか常駐のソムリエとワイン・リストも充実している。

平屋造りのガラス張りの窓からはライトアップされた噴水とその背後に控える貴賓館が一望できる。最初に訪れた時、まるで「007は二度死ぬ」に登場する旧い日本のリゾート地にある高級レストランという印象を受けて嬉しかった。
食事を終えたら来た道を戻り、ロビーにあるメインバー「プリンス・ロイヤル」に向かう。ここでの一服は至福の時間である。メニューにはないレシピのカクテルを頼んだり、もちろん、葉巻を吸う事もできる。瞬く間に時が流れ、自分たちが最後の一組であることに気づく......

「HYATT REGENCY GUAM」 Guam

5分おきに天気が変わる。晴れたかと思えば曇ってスコール、そして、また晴れる......の繰り返し。木々の枝葉が風になびき、体があおられる。日本であれば、さしずめ台風上陸前の三浦海岸というところか。もし、そうなら誰もビーチやプール・サイドには出てこないだろう。本物のサーファーくらいなものか。
しかし、誰もプールから上がろうとはしない。とっくに体が濡れているからも知れないが、やはり、ここはグアムだから、何だって楽しめる気分になってしまうのだろう。女心と秋の空という言葉があるが、まさか、グアムの空もそうだとは夢にも思わなかった。
結婚前のお互い気ままな独身同士だったら、きっとイライラして喧嘩までならなくても、気まずい思いをしたのだろう。
しかし、今は違って、こんな天気やお湯の出ないシャワー、風邪引きそうなくらいに冷房の効いた部屋やロビー、ドアの隙間を通る風で風鳴りのする部屋でさえ、いずれ良い思い出に変わるのだと二人して確信してしまう、グアムでの休暇。
雨に濡れ消えた葉巻を見たプールサイドのウェイターの申し訳なさそうな表情付きの
一言「Sorry, it's crazy weather!」

「THE HANOHANO ROOM」 Honolulu

時差ぼけで倒れそうな到着2日目、晩御飯はどうしようかと、あっちフラフラ、こっちフラフラ、マクドナルドでも良いよね......どうせならなるべく見晴らしの良い処に行って見ようよ......どこ?......ホテルの最上階......何て言うとこ?......確かハノハノ・ルーム.......期待できないかも......名前からして、みんなお揃いのアロハとか着て、パイナップルと一緒にマヒマヒとか出すような処かも......僕たちはヨレヨレだから丁度良いかも(笑)というような調子でホテルに戻り、部屋に寄ることもせず、すきっ腹と買物袋を抱えたまま最上階へ。
ブルゥー・ハァワァアイィーなどと鼻歌交じりでドアを開けると......そこは蝶ネクタイ姿のウェイターが素早く、しかし、静かに動き回る格式のあるフレンチ・レストランだったから、さぁ、大変!ポロ・シャツにショーツ姿で果たして入れてくれるかどうか......まず、宿泊客であることを告げ、次に席が空いているかどうか、そして、最後にドレス・コード(つまり、部屋に戻って着替える必要があるか)を尋ねた。受付の女性は支配人に確認すると言い残し、店の奥へ。彼女と支配人らしき男性が何やら話しているのが見える。時折、こちらを見て値踏みしているようにも思える。そして、戻ってきた彼女は、テーブルは直ぐに用意できるし、着替える必要もないと言いながら、我々を受け持つウェイターを手招きして呼んだ。
案内されたテーブルは予感通り従業員出入り口の側。ウェイターの最初の質問は食事券の有無だった。やっぱり値踏みされたかと思ったのだが、ここで気分を害しても大人気ない。
予約ナシ、服装ダメの状態なのだから(笑)そこで、最初の質問にはノーと答え、ワイン・リストを持ってくるように頼んだ。さすがハノハノ・ルーム、フランス産の高級銘柄からカリフォルニア産の大衆的なものまで、ズラリと揃っている。
そこで、手始めにシャンパンとキャビアのプレートを頼み、次いでオーパス・ワンがあるかどうかを尋ねた。と、数分もしないうちに、ソムリエが飛んできた。非常に素晴らしい選択でございます、と予想通りのことを言いながら、冷やすかどうかを尋ねてきた。もちろん、常温で持ってくるように頼んだところにシャンパンとキャビアの登場。妻と乾杯の後、キャビアを頬張り、シャンパンで流し込みながら、肉だね、肉にしようよとメイン・ディッシュの相談。ウェイターを呼び、シェフのお勧めを聞いてみたが、やはり、ピンと来ない。よし、肉だ!それとサラダ、これで十分だろうと......
ふと気づくと、いつの間に忍び寄ってきたのかソムリエ再び登場。抜栓の儀式を終え、いつも通りに妻がテイスティングを済ませたところで、ソムリエに一緒に乾杯して欲しいからとグラスを持ってくるように頼む。できれば、担当のウェイター君にも加わって欲しいから支配人の許可を取って貰えないかと頼んだ。どうすればこんな笑顔ができるのだろうかと思うほどの笑顔でソムリエはグラスを取りに行き、数十秒で担当のウェイターと一緒に引き返してきた。当然、瓶は直ぐ空に。
そこで、シャトー・ラツールはないかと尋ねたところ......すると、今度はソムリエと一緒にメートル・ド・テル(総給仕長とでも呼べば良いのか?)が数秒で飛んできた。お初にお目にかかります、何かご用の節は何時でも私にお申し付けください、とこれまた絵に描いたように見事な応対振りを発揮する。ラツールを頼んだのだけど、良ければ一緒にどうかと誘って見ると......デザートだ、コニャックだ、葉巻だナンダカンダと豪遊.......取り敢えず今夜のところは、これ位で勘弁してやろう(笑)......翌日の席は演奏しているクァルテットの斜め前、夜景のきれいな大きなテーブルだった......

ハノハノ・ルームの名誉のために言っておくと、料理もワインもスタッフも音楽も眺めも、そして、それらが渾然一体となって醸し出す雰囲気も非常に見事、しかし、お値段は適正。それまでハワイの食事の印象はずっと悪かったのだが、偶然ハノハノ・ルームを訪れたことで、まるで塗り変わっしまったのである。結局、ハノハノ・ルームが気に入った妻の提案でそれから三晩そこで食事を取ることになった。
さて、最初の彼らの対応が今一つだったのは、我々が小汚い格好で、かつ予約無しで行ったことに原因があったように思う。にもかかわらず、彼らは門前払いとせずに席を作ってくれた。明らかに我々に非があった。なぜなら、最高のサービスを準備するには、それなりに時間も手間も金もかかる。しかし、金さえあれば誰でも最高のサービスを受けられる訳ではない。最高のサービスを享受するには送り手の心遣いを理解するだけの余裕と教養が求められるからである。

「深大寺そば」 東京

以前に住んでいた京王線千歳烏山の駅前にある「深大寺そば」を無性に食べたくなることがある。はっきりしていることは「深大寺そば」はそこここにあるし、麺は機械打ちであるし、そばの他におにぎり、うどんやカレーもメニューに載っているような処である。特別に変わった調理をしているとも思えない。
しかし、なぜかそこのそばを非常に気に入り、独身時代だった週末に必ず一度や二度、そばとおにぎりを食べに通った。春菊そばにちくわを載せたものとおにぎりを2個が決まりのメニューである。それを春夏秋冬季節や天候と関係なく、ほぼ毎週末の昼食としていた。そばとおにぎりを食べ終え、その足で本屋に立ち寄り、めぼしいものがなければ、古書店まで足をのばし、葉巻に火を付けて自宅に戻った。
全く別方向に引っ越したために、以来一度も行っていないのだが、特に冬場の曇り空の日にその店とそばを思い出す。('00.02.20)

「葡萄屋」 東京

屋号といい、店構えといい、中に一歩踏み込んでも、まだ、ここが「焼き鳥屋」だとは思えない。しかし、カウンターの様子が少し変わっている......なるほど、ガラスのケースの中には串刺しのネタ、炭火であぶる細長い焼き台に向かって立つ「板前」さん、その板前さんに覆い被さるように大きなレンジ・フードを見てようやく焼き鳥屋であることが分かり、漸くほっとする。
席に腰を下ろすと二つ折りの手書きの大きな品書きが手渡される。焼き物はケースの中を見ながら頼む。ビールを頼むと小ぶりのジョッキで出てくる。黒とのハーフ&ハーフも注文できる。ちょっとした小鉢や皿のものもの旨い。いずれも鳥専門店のために鳥を使ったものばかりであるが、どれを食べても旨いと思う。季節には谷中生姜がそのまま出される。他で食べるものは水っぽかったり、辛いだけだったりするが、ここの谷中生姜はちゃんと生姜の風味がある。もちろん、焼き物はどれも最高である。特にレバーと鳥皮は絶品である。ケースの中には入っていないが頼めば「とっぱ」と呼ばれる焼き物を出してくれる。鳥を解体した際に「とっぱらう」箇所であることから「とっぱ」という名前が付いているが、これがまた適度に油がのっており、タレと絡んで絶妙の味わいである。('00.03.10)